『ECと心理学』 心理学を知ってECサイト運営に活かそう
2022年08月17日ECを活かす心理学で、人の心の動きを知り、売上向上を目指してみませんか。
作れば売れる時代が終わった現在、EC事業に限らず多くの企業は購買者をいかにして限られた予算の中から購買に導くかを苦心しています。
そのためにあらゆる策を講じますが、その策にある一つが心理学なのです。
心理学とは何なのでしょうか。広辞苑によると『人の心の働き、もしくは人や動物の行動を研究する学問。精神または精神現象についての学問として始まり、19世紀後半以後物理学・生理学等の成果を基礎として実証的方法を取り入れ、実証的科学として成立。』とあります。
人の心を深く知り、理解することで人の心理や行動がどのようにして動いているかを知る学問です。
モノを買う、それを決めるすべては人間の心です。
その欲求を、行動・結果に至る心理を知り利用すれば、逆にEC事業者としては購買に導くことが出来るのではないでしょうか。
少しだけ心理学全体の概説
心理学は大きく分けて「基礎心理学」と「応用心理学」があります。
「基礎心理学」には生理心理学、認知心理学、社会心理学、行動心理学などがあります。基礎心理学は人間が持っている心の仕組みを、一般法則として理論的に研究し解明していく学問です。
EC事業を成功に導くためにはこの基礎心理学の中の行動心理学が有用になってきます。
「行動心理学」はその名称通り、人間の行動と、人間がその行動を起こす心理を研究する分野です。
「商品の購入決定に至るまでに、どのような感情を持っているのか」を研究する心理学です。
そして、「応用心理学」は基礎心理学をもとにしてさまざまな分野で具体的に展開していった学問です。 臨床心理学、犯罪心理学、教育心理学などがあります。
参考:
心理学|ウィキペディア
心理学の種類とそれぞれの概要をわかりやすく解説!|リーダーのメモ帳
実は身近な心理学
我々アイベックは滋賀県から情報の発信を行っています。
この滋賀県は近江の国の時代から日本の真ん中に位置するその地の利から商売の盛んな土地柄です。
西武グループ、伊藤忠商事、東レ、日本旅行、高島屋など多くの優良企業がこの近江の地を発祥としています。
ここには近江商人の『三方よし』という考え方があります。
売り手よし・買い手よし・世間よし
商売に関係するすべての人が幸せになり、それが世の中のためになることに続くと考えているのです。
そして、近江の聖人中江藤樹の『心学(しんがく)』の思想があります。
この心学、もともとは中国からやって来た陽明学です。
心学とはその名称通り、心の学問であり、心理学としての面も持っています。
この売り手は売ってくれる人、いわばEC事業者となります。
売り手が儲かれば当然生産者も儲かります。
そして買い手である消費者に喜んでいただけます。
消費者の求める価値を理解し、商品を提供する流れは対面の商売と違うECだからこそ活きてくる面もあるでしょう。
中江藤樹の言葉に次のようなものがあります。
『悔は凶より吉に赴く道なり』
『家をおこすも子孫なり、家をやぶるも子孫なり、子孫に道をおしえずして、子孫の繫盛をもとむるは足無くて行くを願うにひとし』
失敗を恐れずたとえ失敗しても将来への糧として、商流におけるすべてのパートナーを大切にして商品の流れ着く先のお客様に喜んでいただき、関係各社も潤う、この考え方はEC事業にも通じる考え方でしょう。
参考:近江聖人・中江藤樹の思想と生涯~父母の恩徳は天よりも高く、海よりも深し|WEB歴史街道
少しだけ心理学の歴史
人の心に関することですので、やはり起源は古く古代ギリシャ、エジプト時代までさかのぼります。
しかし、学問として確立されたのは新しく、それまでは哲学として扱われていた『人の心の仕組み』は1879年ドイツ、アメリカでスタートしています。
まだ120年ほどの歴史のなかで心理学は経営学、社会学、生理学などほぼすべてのジャンルの学問と領域を接しながら研究されています。
EC事業を含むすべての産業、社会活動には『人の心の仕組み』が関わっているということでしょう。
私たちが心理学で連想するカウンセリング、これが確立されたのは意外にもハーバード・ビジネススクールです。
最も伝統的なビジネススクールの一つであり、ハーバード大学の経営大学院、この経営学の学び舎が臨床心理学の範疇(はんちゅう)であるカウンセリング発祥の舞台となったのです。
精神的に疲れた学生が訪れるホステス・ハウスで行われた傾聴(けいちょう)がその原型です。
そこを出た学生が優秀な成績を収めて卒業したのです。
その効能を認められ、ハーバード大学のカウンセリングルームとなっていきます。
皆さんもご存じのカウンセリングも20世紀に入ってから確立されたものなのです。
しかも私たちに身近な経営学の舞台がその礎(いしずえ)になっていたのです。
EC事業もかかわる経営学に心理学が成長する舞台があったのです。
参考:通信49 経営学と心理学のちょっとした関わり合い|静岡産業大学 応用心理学研究センター
EC各社の取り組みの動向
そして現在、心理学の考えを取り入れた経済学である『行動経済学』を取り入れての経営がGAFAをはじめEC各社でも主流になりつつあります。
行動経済学はアメリカのダニエル・カーネマンが提唱し、2002年にノーベル経済学賞を受賞、2013年2017年にはロバート・シラー、リチャード・セイラーも引き続いて行動経済学の研究で受賞しています。
そして、この行動経済学とは『“心”に着目した経済学』なのです。
参考:5分でわかる!ノーベル賞受賞の「行動経済学」とは人を幸せにする学問だ|DIAMOND online
行動経済学
行動経済学は一般の経済学とは違い、人間は必ずしも合理的な意思決定をしないことがあるという、いわば『人の心は分からない』と称した日本の臨床心理学者の草分け、河合隼雄の言葉、心理学の真理を中心に考えられた経済学です。
私たちEC事業者にとって有用な法則をいくつかご紹介します。
プロスペクト理論
プロスペクト(prospect)は日本語訳で予想、期待です。
プロスペクト理論は行動経済学の代表的な考え方で、その時の経済状況でその先の判断における選択肢が変わり得る、ということです。
この理論を用いた実験結果です。
- 質問1:あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示されたものとする。
① 選択肢A:100万円が無条件で手に入る。
② 選択肢B:コインを投げ、表が出たら200万円が手に入るが、裏が出たら何も手に入らない。 - 質問2:あなたは200万円の負債を抱えているものとする。そのとき、同様に以下の二つ選択肢が提示されたものとする。
① 選択肢A:無条件で負債が100万円減額され、負債総額が100万円となる。
② 選択肢B:コインを投げ、表が出たら支払いが全額免除されるが、裏が出たら負債額は変わらない。
質問1,2とも①の選択をすれば黙っていても100万円が手元に入ってきます。
普通であれば確実なこの100万円を手に出来る選択をし、コインを振らないのですが、
質問2の200万円の負債という負債を抱えると質問1で①を選んだ人も②というギャンブル性の高いものを選ぶという実証されています。
EC事業におけるWEBサイトにおいての利用では期日や人数を限定するキャンペーンで利用されます。
飲食店やスポーツクラブなどで
『人数限定○○人まで半額』、『○月○日まで30%オフ』などがそれに当たります。
アンカリング効果
最初に見た数字や条件が基準となって、その後の判断が無意識に左右されてしまう効果を言います。
日本語話者が「ピザ」と10回言わされた後に、肘を指差して「ここは?」と問われた際に「ひざ」と答えてしまう現象も、アンカリング効果の一つです。
EC事業におけるWEBサイトにおいての利用では、価格の対比をさせる際にA社3万円、B社8万円、C社5万円の高い金額のものを表示させておいて消費者にはその中でも安いA社3万円をアンカーとして頭に固定してもらいます。
その後に、自社の1万8千円を提示すれば非常に安く感じてもらえます。
アンカリングのアンカー(anchor) の日本語訳は碇(錨、イカリ)です。碇で記憶を引き留めるということです。
サンクコスト(埋没費用)
サンクコストは日本語訳をするとSunk(Sink=沈むの過去分詞)+Cost(お金)、返ってこないお金ということです。
EC事業においては目に見えるものよりも目に見えないものへの投資の方が大きいでしょう。
明らかに過大投資、失敗の投資になってしまった際にそれをなかなか見切ることが出来ない人間の心理から生まれてしまう費用です。
EC事業におけるWEBサイトにおいての利用で考えると、ホームページをリニューアルしたい企業があるとします。
しかし初期投資や移行にかかる費用でなかなか見切ることが出来ないのが一般的な実情です。
そこでリニューアル時の初期費用、移行費用の無料キャンペーンを行うのです。
やめなければ損だということがわかりながら、やめることの出来なかったユーザーから問い合わせ、契約率はアップするでしょう。
そして、保守費用、オプションなどで無料分の費用は回収すればよいのです。
参考:サンクコスト(もったいないの罠):行動経済学とデザイン20|note
フレーミング効果
フレーミング効果は同じことでも表現方法によって与える印象が変わり、逆の選択をしてしまうことがある効果を言います。
額(フレーム)によって同じ絵でも見え方が変わることと同じです。
EC事業におけるWEBサイトにおいての利用で考えると、
例えば、コロナウイルスワクチンの効用を
- 95%の人に効果がある
- 5%の人に効果が無い
上記のように表記すると、同じ効果でも上記『95%の人に効果がある』の方がワクチンの効果があるように感じてしまいます。
これと同様に今ならば、
- 二つ買ったら一つはタダ
- 二つ買ったら50%オフ
上記のように表記すると上記の方が得な感じがします。
参考:心理学の「フレーミング効果」とは?豊富な例で即理解!|STUDY HACKER
最後に
ECと心理学、EC(Electric Commerce)の仕組みは、人がモノを売り、モノを買うそんな最終的な形の間に作られて、私たちに様々な利便を享受させてくれているだけです。
最後の決断は人です。
その最終決断の左右を導くことが出来れば私たちの仕事はやり易いものになり、そのための仕組みがわかれば決断へ向けての努力もしやすくなります。
ECと心理学は切って離せるものではありません。
ECにおいての心理学をよく理解していただき更なる飛躍を目指していきましょう。